孤独の戦いと限界
〜学校〜
〜昼休み〜
『………』
『………』
久しぶりに登校する学校は、懐かしいものではあるけど、他人の視線を感じずにはいられない。
自殺未遂は、学校内では大事件だったらしく、テレビにまで大きく報じられた。
『…多田さん』
多田さん、ごめんね。
書いてみたけど、俺の文章なんて何の意味も為さなかったよ。
人間を穏やかにする環境が、今の社会にないんだ…
皆、欲に飢えに飢えて…
ストレス発散する作業に、精一杯なんだ。
〜屋上〜
『………』
視線を感じずにいられなかった俺は、屋上で休むことにした。
多田さん、君は呟いたよね…。
白馬の王子様はいない、って…。
女性の理想の神話が崩れるのは、俺も寂しい。
時代の流れによって、昔あったものが破壊され、新しい物が作られる。
これも時代の流れによる、摂理なんだろうか…
『白馬の王子様、か…』
『ま〜た、考え込んでますね』
考え事をしていたら、いつの間にか恵理がいた。
それなりに普通の会話ができるようになったが、まだ怒ってたりする。
『い、いや…』
『すぐ考えて込んでしまうんだから』
『………』
『椎名さんが探してましたよ』
『…もう罪の意識を感じなくていいのに』
椎名の落ち込みようは、半端ではなかった。
イタズラとは言え、俺がやけくそになって手首を切り、大惨事になってしまい、悔やみきれなかったらしい。
『…もう気にしないで、って伝えておいて』
『伝えておくけど、結局のところ優助君が、元気なところを見せるのが肝心なんだよ』
『…そうだね』
『そうだよ』
会話から積極的にしていこう。それだけでも、椎名の罪の意識を緩和できるはずだ。
……
…
〜自宅〜
『………』
俺はもう迷わなかった。
少しずつ答えが見えてきた。
今より悲惨な時代、旱魃、飢饉、戦国、もちろん性的暴行も含め…
歴史は弱い国、弱い身分、弱い者から順番にひどい扱いを受けた。
信心深い人も、神の助けなどなかった。
それが、俺の中で確信したものがあった。全くの弱肉強食を繰り広げられているのだろうと…。
史記を、死に物狂いで完成させた司馬遷は…
『天は何もわかって下さらない』
『天の力は微なり』
…と皮肉ったことがある。
同感だ。人生は悲しみと一対している事を含め、俺もたっぷり皮肉を込めた。
『天は悲しみで嘆く、人々の感情を食べる生き物だ』
…と。
〜1ヶ月後〜
〜学校〜
〜昼休み〜
『相変わらず、粗食だね』
『…宮川』
『うどん一杯で足りるのか?』
『…うん』
まだ気にしてるな…。
流石に、もう罪の意識を感じてほしくない。
ポンっと椎名の頭に手を乗せた。
『なによ』
『十分すぎるほど反省したんだから、もういいさ』
『………』
『後先を見失い、やけくそになった俺も悪いんだから』
『………』
『もう忘れるんだ、いいね?』
『うん、ありがと』
スマイルがヤケに眩しかった。
やはり、俺が発言しないと何も始まらないものだな。
『あんたはカレーなの?』
『そうだよ、いつでも美味しく食べれる万能メニュー』
『たかが、カレーくらいで』
『たかが…、だって?』
『何よ、そうでしょ』
『カレーを少し分けてやるよ。学食のカレーの美味しさを知るのだ』
俺はスプーンで強引に入れようとすると、椎名が手でカバーに入る。
『こら!、止めなさいバカ!』
『カレーうどんにしてやる』
『バカ!』
手をギュッとつねられる。
あまりの痛さに手を引っ込めた。爪を使うから、結構痛い。
『冗談なのに…』
『冗談と思えない冗談だわ』
『たまには、恵理とも一緒に食べようよ。会話を交えて、ね?』
『………』
『ね?』
『うん、1人って寂しいもんね』
ようやく、椎名との仲が戻ってきた気がする。
椎名も久しぶりに、笑顔を見せていた。
〜学校〜
〜下校中〜
『椎名さん、大分話すようになりましたね』
『恵理の言う通り、元気な姿を見せてやらないとね』
『言った通りでしょ』
『ああ』
あの後、恵理とその友達も交えて食事した。
椎名は最初、戸惑いがちだったが、俺のからかいに勢いがつき、流れに乗ったところで、遠慮しつつも会話を楽しんでいた。
『1人って本当に弱くなるね。俺もそうだし、椎名もそうなったし。孤独には限界があると解ったよ』
『…だから、相談してって言ったのに』
『…大丈夫なつもりだったんだよ。でも気付けばやせ我慢だったり』
『…中々、自覚しないものですね』
『恵理は俺を反面教師にしてね。決して、1人で悩まないでね』
『…優助君が言っても、説得力がないですよ』
『恵理は俺のようになってほしくないんだ。本当に苦しいんだ、孤独というのは…』
『………』
『いつでもサインを出してね。相談に乗るから』
『うん、友達だもんね』
『友達だもん♪』
人間というのは、友達との助け合い、人生の支え合いこそ、最上の在り方だと思う。
それはきっと、1人、孤独になって初めて気付くものだろう…。
友達が孤独に陥れば、助けてあげなければならない。
恩を預ける様なものになるのかもしれないが、自分にも訪れる不幸を助けてもらうために、人を助けるのだ。
その助け合いが人生のリアルなドラマを作り、人生を演じきることができるのだろう。
〜終〜