フェアリーテイル
「お待たせ」
部屋の外に出ると、そこにはライネしかいなかった。
シルヴィアは一足先にこの城を出て行く、他の城主たちを見送りに行ったのだそうだ。
「少し、お散歩しない?」
ミリアが誘うと、心配そうなライネの顔と目が合った。
「大丈夫、少しだけだから」
本当は少し熱でふらついていたのだが、外の空気が吸ってみたかった。
ライネは渋々同意すると、一度部屋の中に戻ってミリアのコートを取って戻ってきた。
「じゃあ、行こうか」
物語のお姫様にそうするように、ライネは優しくミリアの手をとった。
二人で中庭を歩いていると、銀色に輝く庭園はどこまでも静かだった。
まるでここには二人しかいないような、そんな錯覚すら覚える。
「……」
何を話すべきなのかはよくわかっているつもりだった。
ただ、どう彼に切り出すべきなのか―…ミリアは言葉を探してぼんやりと空を見上げた。
「ミリア」
ライネは突然立ち止まると、優しい口調でそう声を掛けた。
ミリアもゆっくりと立ち止まると、真っ直ぐにライネの瞳を見つめ返す。
「聞いて欲しい話がある」
なんだろう、と首を傾げる。
ライネはふっと微笑むと、ミリアの手をそっと取りその指先に口付けた。
「虫のいい話だと、君は怒るかもしれないけれど…改めて言わせて貰いたいから」
「ライネさん…?」
ミリアが首を傾げると、ライネは困ったように微笑んだ。
「魔女を倒すために、君はこの世界にクイーンとして残る、と言ってくれたね。僕のことを好きだから、と。その気持ちに…今も変化はない?」
「当たり前よ」
ミリアが言うと、ライネは嬉しそうに微笑んだ。
ミリアの大好きな笑顔で。
「よかった…。今更気がつくなんて遅いかもしれないけど…僕も君が好きみたいだ」
ライネの口から飛び出した言葉に、ミリアの瞳は大きく見開かれた。
まるで言葉を失ったように―…ただライネを見つめていることしかできない。
「僕と一緒に、居て欲しい」
ややあって、ライネがそう言った。
ミリアはライネの胸の中に飛び込むと、ぎゅっと彼を抱きしめた。
「嬉しい…そう言ってもらえるなんて…思ってなかった」
「ごめんね…」
色々な意味の込められたごめんねを聞きながら、ミリアはふるふると首を横に振った。
ライネはミリアのことを抱き返しながら、そっと頬に触れた。
「謝ってばかりね、ライネさん」
ふふっと微笑むと、ライネもつられて微笑んだ。
こうして同じ気持ちを抱いて、そして隣に居られることがお互いの幸せなら。
こんなに嬉しいことはないとミリアは思う。
「大好きよ、ライネさん」
「僕も、愛してる」
二人の影が一つに重なり、そしてすぐに離れる。
そうして微笑み合っていれば、何があっても大丈夫だとミリアは確信できた。