桜舞う頃に
古くからの言い伝えがある。

神に愛されし者現るとき、幾千年の栄華を与えん。

しかしながら、其の者異形の姿にて産まれいづる。

異形ということで気味悪がられるが、今まで神に愛されし者が産まれた時、いづれの時も天変地異、政治混乱など、大変な時代に産まれてきていた。

そのため、大切に育てられるが、混乱を納めると用済みのように見向きもされなくなる。

それを神々は悲しみ、幾久しく産まれることがなくなったのである。

それがここ数年で5名続けて産まれたのであるから驚くのも無理はない。

一人は言わずもがな、左大臣家 淑子姫。
初めて降臨し玉依姫の恩恵を受ける姫、
祝福は水。亜麻色の髪に紫玉の瞳にて産まれている。

もう一人、太政大臣家 和子姫
恩寵を与えし神は奥津比売神
火の祝福を受けし者。
金髪に金色の瞳にて誕生

この姫は幼少の折から親しくよく知っていた。

太政大臣が母の兄に当たる人物で、後見人として幼少時太政大臣邸で暮らしていたから。


男勝りでおよそ女らしくない。

だが、大人しくしていれば美姫には違いない。

もう一人

衛門督藤原篤高の妻でもある雅子姫。
恩寵を与えしは天鈿女神。
芸能の祝福である。

親戚でもあり、よく知る人物。

聡明で親しみが持てる人だった。


都で名高い3美姫のうち、会ったことがないのは淑子姫のみ。

おそらく、今、出逢ったのがその姫なのであろう。

産まれ出で、数年内に神の降臨があり、何らかの祝福を受けた姫君たちであった。

そして、自分ともう一人、同じように神の祝福を受けた公達がいるのである。

淳貴親王は体が固まったように動かないままそう頭の中で考えていた。

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