シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
その不可解な行動の意味がわからぬ僕は、それを解くよりも、任務を遂行させた。
障害を振り切れたのなら、術破りを遂行させるまで。
周涅に構っていられるか。
「今だ玲、一の石碑から鉄の胡桃通りに、力を走らせろ!! 大丈夫、俺達の力がお前の力を途絶えさせない!!!」
力が地面に届く直前で、櫂の声が響いてきた。
鉄の胡桃通り……?
ちょっと待て、意味がわからない。
地面にある鉄の胡桃に力を通せばいいだけじゃ……?
「あ、俺、説明してねえや!! 玲、鉄の胡桃を一筆書きしてくれ!! 俺も今度こそは、奥義が消えねえよう、手伝うからさ!!」
脳天気な煌の声。
「一筆書きってなんだよ!?」
今になって、なに言うんだよ。
「鉄の胡桃が僕のどこにあるのかより、それを先に言うべきだろう、駄犬!! 順序を教えろ!!」
「悪ぃ。俺の口からは説明できねぇわ。そこらへん、全部チビが知っているから、リス感覚で頑張ってくれ!!!」
………。
あまりのアバウトさに、殺意が芽生えた瞬間だ。
「あのさ……チビちゃん、今は紫堂玲、だよね?」
今更ながら、確認を求めてくる翠に、僕は頷いた。
「俺達、9つの石碑を正しい順番にひとつに結ばないといけなくて。チビちゃんが正しい順で鉄の胡桃おいてくれたんだ。そして奥義でそれを結んで貰おうと」
意識が入れ替わってしまったのだから、リスがどのように鉄の胡桃を置いたのかわからない。
9つの石碑の正しい順すら僕にはわからない。
僕が見ていたのは、分割された映像のみで、石碑の位置関係すら把握していない。
わかるのは、石碑がばらばらに並んでいるだろうことだけ。
そんな時だった。
出し切った力が地面に届いた感触を覚えた瞬間、突如光に覆われた視界に目を細めた。
「紫堂玲……。鉄の胡桃通りに、力が動いているよ……」
「僕はなにもしてないのに……」
細い視界の中、うっすら見える。
まるで一筆書きをしたような複雑な軌跡が、曙光のような瑞々しさで浮かび上がっていることに。
それは光の波動となり、場に更なる光をもたらした。
もう、目が開けていられない。
「この光の感じは……吉祥ちゃんの光……?」
パリーン。
僕は、遠くで……硝子が割れたような音を聞いた。
同時に光が薄れた気配がして、僕は目を開けていった。
目に映ったのは――。
崩れて、消えて行く終焉の景色。
渦状に密集していた白いスクリーンが、まるで花びらを散らす大輪の花のように。
はらはらと。
ひとつ、またひとつと。
役目を終えて、朽ちていく――。
ああ……
周涅の術は……破れたんだ。
桜もどきは、僕達の力に抗ったのではない。
術破りに、僕達に助力したんだ。
翠の切なる声に呼応したのか。
そして、桜もどきは――、
「吉祥ちゃん、吉祥ちゃん!!?」
ひらひらと、宙を舞っていた。
それは人型とは言いがたい――紙の切れ端。
消え入る寸前の……命の切れ端となって。