シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
それを掌で受け止めた翠。
『翠殿……』
無機質であるはずのその切れ端から、泣いているようなか細い声が聞こえた。
耳というよりは、心に響いてくる声。
……翠の声ではあるけれど。
『すみませぬ、翠殿。わらわは……』
これはきっと、周涅の呪縛が解けた……もともとの式神のものなんだろう。
原型は留めていないのに、悔いた心は切々と心に流れ込んでくる。
『わらわは翠殿を裏切り申した。それだけではなく……』
後悔の念が強いからこそ、思念として僕も式神の声が受け取れているのかもしれない。
『わらわは、皆を……剣鎧までもを……』
最期の思いだからこそ、生きているゆえに僕は感じ取れるのかもしれない。
無念の心を、生きて繋ぐ役目として。
「吉祥ちゃん。皆に、そしてゴボウちゃんに悪いと思うのなら――」
翠は厳しい声で言った。
「ゴボウちゃんの分も生きるんだ」
しかしそこには愛情が溢れている。
『なれど翠殿、わらわは……』
翠は、僕を頭に乗せると、ポケットからなにかを取り出した。
それは……髪?
「吉祥ちゃんの一部だ。大分消えて短くなっちゃったけど、僅かでも"繋ぎ"があれば、俺は……吉祥ちゃんを復活できる」
『翠殿……わらわは翠殿を……』
「吉祥ちゃんは、自らの意志で戻ってきた。それでいい。ゴボウちゃんもきっとそう言う。だからゴボウちゃんの分も生きて……後で俺の知らないゴボウちゃんのこと、俺に教えてね!!」
そう言うと、翠は唱えたんだ。
「急急如律令!!
我が手に、式神吉祥――
その姿を蘇らせたまえ!!」
そして、目の前には――。
「吉祥ちゃん。俺はまだ……君の主としては不足?」
そこには、桜の顔をした――美しい女性。
体は芹霞ほどの大きさで、古代中国女性のような半透明な布を纏っている。
……なんで桜?
桜もどき……もとい、桜そっくりな式神は、恭しく翠に頭を下げた。
「わらわの主は、翠殿ただひとり。
この吉祥……この命のすべてを翠殿に捧げますれば」
「やだなあ、その命は…ゴボウちゃんの分として、生きる為に使えよ?
これ、主としての俺の命令だからね」
「翠殿……」
翠は、式神を従えたらしい。
あれだけ最初の式神が消えた時は怒り狂っていたのに、それを赦すだけの許容量が備わった。
まるでそれは……櫂のような懐の大きさで。