シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「判ってるよ、桜。
芹霞の…僕への心は、櫂と僕とを取り違えた…"錯覚"の比重が大きい。
真実の相思相愛ではないんだろう」
切ないね…。
言葉に出せば更にやるせない。
「判っていても…
今、僕は…芹霞を遠ざける事は出来ない」
――玲くんが好きです。
「僕は、紫茉ちゃんを抱かない。
だとすれば…芹霞は利用される。
僕が…一連の渦中にあるというのなら。
その僕が反抗しようとしているのなら。
芹霞は、僕を手懐けるために危険な目にあうだろう。
"約束の地(カナン)"を簡単に爆発させて笑う男達に、手段など選びはしない。
短期間で効果的な方法で僕を懐柔する気なら。
芹霞が適していると…誰でも判るくらい、僕は芹霞を溺愛している」
そうであれば――
「対外的にも、僕の"恋人"としての肩書きを持たせる。
何処まで効力が出るか判らないけれど、少なくとも…数日前の"客人"よりは、僕の傍に居る名目にはなる。……そんな顔をするなよ、桜。錯覚でも何でも、僕の傍に芹霞が居ようとしてくれているのだけでも、僕は幸せなんだよ。
僕だって…錯覚のまま終わらせない。全ては自分が蒔いた種だけれど…やっぱり…芹霞の真実の愛が欲しいんだ。もっと激情が欲しいんだ。
その為にも、僕は…櫂みたいに強くなりたい。
そして――
周りに…僕を相手として認めて欲しいんだ。
皆からも、芹霞からも。
もう…卑怯なままで居たくないんだ」
「玲様…」
「0からスタートの気でいるよ、僕は。優位性なんて何もない。本気になった櫂なら、12年間の思い出が無くても…十分に強敵だ。
それに判ってるかい?
煌も居るということは…あいつも強くなるということ。
あいつの弱点は…心の弱さ。
それが改善できたのなら…芹霞が煌に心を奪われることだってありえる。何よりあいつは、一番無意識に"男"を芹霞に意識させている。今の処、あいつの無自覚さに助けられてはいるけど。
だとすれば。
僕は…今度は追いかけられるという立場で、芹霞が奪われないよう…必死に守るしかない。今までの…櫂の立ち位置でね」