シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


そしてひとしきり笑うと、桜に聞いた。


「で、桜、"彼女"の首尾は?」


「はい。指示通り…前もって東京タワーに仕掛けていた"探索機"に"仕掛けた"後、戻ってくるようです。玲様、あの機械は…」


「うん、東京が停電になった際の原因を調査していた、僕が作ったアレだよ。メインコンピューターを電源にしていたから、虚数が蔓延して僕の支配下からそれた時点でただのガラクタ、塔に…機械を動かしていた電力を根こそぎ奪われていただろう」


「玲様…動かすことは"彼女"ではなく桜でも…」


「ん…。あれはね、小さいながらも高性能で、チップを入れるだけと言っても、改変するには少しばかり厄介なんだ。罠(トラップ)性の高い設計にしたからね。幾ら『漆黒の鬼雷』たるお前とて…高電圧にひとたまりもないだろう」


少し不満げな表情を見せた桜に、そう僕は笑った。


「その点…彼女は特異体質だからね。電気と相性が良い」

「体格のせい…ですか?」

真面目な顔をしてそう言う桜に、思わず僕は笑ってしまった。


「そう思いたいけど…彼女は昔からそうらしいよ? だから…紫堂にスカウトされたんだ」


桜は"彼女"の詳細は知らない。

僕の知り得ている情報を話せば、桜はどんな反応を見せるだろう。

それは面白い気はしたけれど、それは後でのお楽しみにしよう。


「"約束の地(カナン)"で氷皇がメインコンピュータの単語を出してきたのなら、それを使う必要性があるということだろう。指示通り動くのは面白くないけれど、メインコンピュータの必要性は僕も判っているからね。

由香ちゃんが櫂と共に居る今、僕は自力で何とかメインコンピュータを動かせるようにしなければならない。その為には僕が使える…0と1の電力が必要だ。

今、電脳世界に置いてきている僕の月長石と、ブレスレットの月長石との連携によって…何とかどちらの世界にも0と1が生まれているけれど、元の電気の状態に戻すにはまだまだ足りないし、そちらに流してしまえば…僕自身、大きな力は使えない。無論、メインコンピュータを動かすことさえも難しいんだ。虚数が増えすぎているから。

三沢さんが特殊な周波数で虚数を取り除くことには成功したけれど、東京全体の虚数を除去するだけの周波数を操る機械もないし、正直僕には音に対しては専門外だから、上手くいく自信がない。だからね…別の方法を考えた。

0及び1と虚数の関係は…弱肉強食のようなどちらかが迎合するような、引力のような関係にある。ならば逆に虚数同士の反発し合う斥力を利用すれば、虚数が少しでも相殺できないかなと思ったんだ。

もっと言えば…僕が狙っているのは斥力ではなく、逆流だ」

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