シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



そして――

この不可解な言葉がもたらすものは、2ヶ月前…藤姫が唱えていた『黒の書』の詠唱を聞いた時のものと似ている。


こちらの気を乱れさせ、人間が誕生する以前にまで遡る、"原始"の恐怖を喚起させるような…瘴気に満ちた凶言。

それがこの漆黒の闇。


闇使いの俺が、闇を制御出来ずに闇に取り込まれそうになった…あの恐怖を、俺は感じ始めたんだ。


その瘴気が凶悪な攻撃性を見せて…、荒波のように俺達を呑み込み襲いかかろうとしていた時、不覚にも俺は…あの時と同じように、地面に崩れそうになってよろめいていた。


そして芹霞の異変を感じた…気がしたんだ。

あの記憶の遡及によって感じた…ただの杞憂であって欲しい。



「小猿、櫂を頼む!!」


それにいち早く反応したのは煌で、庇うように俺の前に立つと、巨大にさせた偃月刀を1度回転させ、それを両手で構え対峙した。


瞬間的に高まる煌の気。

いつも…鋭利な鋼の色しか見せない偃月刀が、煌の太陽石のように…鮮やかなオレンジ色に輝き、純度を増して…煌自身の色になる。

闇の中でも煌めく…光の色へと。

光は物質化した。

ゆらゆらと揺らめきながら、橙色の炎となったんだ。


偃月刀は――

煌独自の色の炎を纏い、炎の剣へと進化した。


「はっ!!!!」


瘴気の波に向けて振り下ろされる偃月刀。


炎を象る、凄まじいエネルギー放射が瘴気の波に対抗し、抑えようと猛威を振るう。


少し前、突然にして風を生んだ煌の力は、今度は炎までも生んだのか。

簡単に。


翠に支えられてなんとか立つことが出来た俺だったが、逆に翠の方が、煌の力の凄まじさによろめき始め、今度は俺が支えることになった。


――!!?


橙色を呑み込もうとする漆黒色は膨張し、押され気味となってしまう。


「ちっ!!! 勢いが…強い!!! 所詮は…付け刃か!!!」


煌の舌打ちが聞こえてきた時、俺は煌を補佐しようと風の気を高めた。


「櫂はひっこんでろ!! 俺は…お前を守る為に此処に居るんだ!!!」

「しかし…」

「護衛が主に守られてどうするよ!!?」


そんな時ばかり主従関係をを持ち出す煌は、苦しい顔をしながらも、こちらを向いて無理矢理に…にっと笑う。


――ああ、強い護衛になりてぇ…。


常日頃煌がぼやいていたことは知っている。


しかし…今のこの状況では――


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