シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「師匠、振り切れるのかい?」
「減速し始めている」
依然堅い表情の玲くん。
玲くんの全身から、ゆらゆらと青い光が煙のように立上っている。
「減速!!? エンジントラブルかい!!?」
「…みたいなもんだね。虚数が増えたせいで、この車の電気系統が虚数変換されて、通常の制御が出来なくなってきているんだ。それだけじゃない、車から電気が無くなるということは、バッテリー電源も切れるということだから、このままではこの車は停まってしまう」
「「はいぃぃぃ!!!?」」
「車奪取を見越してあのデコトラが虚数を運んできたのか何なのかは判らないけれど、もうハンドルが利かなくなっている。今、無理矢理に僕の力で0と1を増産して、補助して車を動かしている状態だ」
あたしは窓をあけて後ろを見た。
何かの宣伝トラックのような派手派手しいトラックが、猛速度で突っ込んでくるけれど。
「芹霞、中へ!!!」
玲くんの荒げられた声と共に、車大きく右に蛇行した。
と同時に、車体に衝撃音が聞こえて。
「やば、師匠これ…銃弾じゃないかッッ!!!」
音が聞こえたドアの下あたりが、不自然に凸凹している。
「またか!!! またハンドル切るからね!!!」
今度は大きく左に蛇行した車の中、あたしは由香ちゃんと手を繋ぎながら、身体が振り回されないように頑張った。
ドンドンドン。
まるで、外側から何かが突き刺さってきているかのような堅い衝撃音。
「右のバンパーがやられたか。困ったな、0と1の増産に集中させてくれない」
「虚数が増えるっていうのは、東京全体かい!!?」
「いや、この車限定だ。反対車線の車は快調だし、あのデコトラも派手な電飾からは、ここまで虚数は感じない。今、事故にならない程度に周囲から0と1を奪って、それを土台に増産をしているけれど、正直…虚数の速度に追いつかない」