カプチーノ·カシス


「そうだ、愛海ちゃん。これ穿く?」


僕が自分のバッグから取り出したのは、冬のバイク通勤に欠かせないスキーウエアのズボン。

これを一枚上から穿くだけで、風が防げてかなり寒さがしのげるんだけど……

愛海ちゃんはズボンを見つめたまま、固まって動かない。

あ……嫌だよね、いつも僕が使っているやつなんて。


「ごめん……穿かないよね、他に何かあったかな…あ、ネックウォーマーする? そのマフラーじゃタイヤに巻き込まれそうで危ないし。あ、貼るカイロもあるよ!」


僕が次々にバッグから防寒グッズを出していると、隣でクスクス笑う声がした。

笑う、声……。

愛海ちゃんが、笑ってる……?

僕は慌てて顔を上げ、彼女の表情を確認する。


「ふふっ、どんだけ出てくるのよ……」


まだ瞼は腫れているけど、その笑顔はとても自然で……

嬉しくなった僕が次は手袋を出すと、愛海ちゃんは手を叩いて笑ってくれた。


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