カプチーノ·カシス
ハルのお陰で穏やかな気持ちになっていたあたしは、会社を出て少し先を歩いていたハルの隣に、自分から並んだ。
そうしてマンションまでの道のりを、他愛もない話をしながら歩く。
「……ハルの隣って、落ち着く」
「ああ? なんだよ急に」
たとえば話すことがなくてお互いに黙っていたとしても、ハルとならそれは苦痛な時間ではない気がする。
課長と一緒にいる時は、話が途切れないように頑張って話題を探した。
でも、やっぱりああいう関係だったからタブーな話が多くて、地雷を踏まないようにあたしはいつも必死だった。
でも、ハルのそばにいるときは、それがない。
「……んなじっと見ても、何も出ねぇぞ?」
そう言って微笑んだハルの笑顔は、初めて開発室で顔を合わせたあの頃よりもずっと優しいものに変わっている。
とくとくと穏やかなリズムで弾む心臓は、どうやらその笑顔にときめいたみたい。
「……その顔好き。もっと笑ってみて?」
「高くつくぞ」
「いいよ、別に」
着いたらご奉仕してあげる。と、さっきの冗談に乗っかるあたし。
すると、ハルは流し目であたしを一瞥し、片側の口角だけを引き上げた。
「……その笑顔じゃないんだけど」
「大して変わらないだろ? ――つまり、お前は俺に奉仕する、と」
「ちょっと!」
そんなばかみたいな話をしていると、いつの間にかハルの住む大きなマンションの前まで来ていた。