カプチーノ·カシス
「この部屋、どう考えてもうちの会社のお給料じゃ住めないよね?……あんた何者なの?」
あたしの問いかけにハルは手を止めることなく、ブラのホックを器用に外すとこう答えた。
「……別に。父親が貿易関係の会社経営してて、ちょっと儲けてるだけだ。」
この部屋を見る限り、絶対“ちょっと”じゃないと思うけど……
「ハルは後継がなくていいの?」
「ああ。仕事柄親父が色んなコーヒーを家に持って帰って来るんだけどな。俺はそれに魅了されて、絶対コーヒー関係の仕事に就くんだって昔から言い続けてたからな。会社は弟に継がせるらしい」
「へぇ……」
なんだかハルとこんな世間話をするのは不思議だ。
それでも話してる間中、ハルはあたしの胸に手を這わせていたけれど。
「だから住む場所も入る会社も、ついでに付き合う女も……今までの俺は自分の思い通りに選んできたわけなんだけどな……」
あたしはされるがままで、ハルの話に耳を傾けていた。
「ただ、一番欲しいものだけ……手に入らないんだよな」
「一番欲しい、もの……?」
ハルは一度動きを止めると澄んだ瞳にあたしを映す。その目はいつもより真剣な気がして、心臓がドクンと鳴った。
「今までどんな女も思うがままにしてきたこの俺に、何度抱かれても落ちない、生意気な女がいんだよ」
“何度抱かれても”って――それ、もしかして……
「あ、たし……?」
ハルはその質問には答えず、あたしの顎をクイッと上げると強引に唇を重ねてきた