違う次元の迷子センター
きっぱりと言い放つと、ヨシュアはますますおかしそうに肩を震わせた。
「さすがに隠し子はないなあ……ないはずだよ、うん」
 冗談めかした言葉が、ヨシュアにかかるとあまりにも胡散臭くて、本気なのかそうじゃないのか分からない。疑わしげな私の視線を感じ取ったのか、ヨシュアが困ったように笑う。
「まあ、伊達に長いことコンポーザーやってないしね。それに」
 くるりとこちらを振り向いたヨシュアの手が、すっと俺の頭を撫でた。歩きながらだったから、一回だけ、それでも手つきは限りなく優しく。
「子どもの相手ならいつもしてるじゃない?」
 ふんわりと一瞬だけ柔らかく微笑んだ表情は、すぐに前に向き直ったせいで見えなくなってしまう。それでも甘く蕩けたスミレ色の光が目に焼きついてしまって、その子どもはもしかして私のことかとか、誰が子どもだとか、子ども扱いするなっ!とか言い返してやりたかった言葉はぐるぐると頭の中を渦巻いただけで外に出されることなく消えた。
 優しく頭を撫でたヨシュアのゆびの感触に思わず熱くなる頬を押さえながら、綺麗に伸ばされた背筋をじっと睨みつけることしかできないのが悔しい。
 ヨシュアがこちらを見ないうちに、赤くなってしまったであろう顔はなかったことにして、本来ならヨシュアと手をつないでいるのは俺なのに、と幼子に対して抱いてしまったみっともない感情も見なかったことにして、まっすぐなその背中を見失わないようにスペイン坂のコンクリートを蹴った。
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