風に恋して
「ああ、カタリナ。早かったな」
「あ、はい」

そのときちょうどレオが部屋に戻ってきてカタリナがハッとリアから視線を逸らし、レオに頭を下げる。

レオはまた書類の束を抱えているので、今日もリアの部屋で執務をするつもりなのだろう。ローテーブルに書類を置いてリアの元へやってきたレオは、桃を食べている彼女を見てかすかに目を見開いた。

「リア、お前……桃を食べているのか?」
「え……?は、い」

リアはまた首を傾げ、フォークに刺さった桃の果肉に視線を移した。カタリナもレオも、リアが桃を食したことに驚いているのだろうか?

「あぁ、悪い。その……お前が桃を一番に選ぶのは、珍しい、というか……」

レオにしては珍しく歯切れの悪い、その答え。

「そう、ですか?」
「いや、食べたいのなら食べるといい。まだたくさんある」

リアはなんとなく居心地が悪いような気持ちで、もう一度桃を口にした。

(おいしい、のに……)

自分が桃を食べるのは、そんなに珍しいことだっただろうか?なんとなく目に留まった、というか……食べたいと思っただけなのだけれど。

確かに良く考えてみれば、積極的に食べることはなかったかもしれない。果物の中ではオレンジなどの柑橘系、甘いだけでなく少し酸味の混ざったものの方が好きではある。

けれど、お皿に乗ったそれらを見てもなぜか“食べたい”とは思わなかった。体調のせい、なのだろうか。

リアはぼんやりと考えながらお皿の桃をすべて食べた。
< 106 / 344 >

この作品をシェア

pagetop