風に恋して
夕食の後、湯浴みを終えて部屋に戻るとレオがソファに座って書類にサインをしていた。その姿を見た瞬間、ドキッとする。

(来て、くれた……)

「ああ、リア。湯浴みに行っていたのか。体調は大丈夫なのか?」
「はい……」

レオの顔を見ることができなくてリアは足早にベッドへと歩いていき、本を開いた。するとレオのクスッと笑う声が聴こえて、すぐにベッドがもう1人分の重みを受けて少し弾んだ。リアの、鼓動と一緒に……

「またマーレの神話か。本当に好きだな」

レオがリアの手元を覗き込んで笑う。頭を撫でてくれる大きな手が温かい。

火照る身体は、湯浴みから帰ってきたばかりだから……?

「雨が降り続ければ……」

小さく呟いて、開いたページを指でなぞる。

ここのところ繰り返し読んでいる話――雨の女神の悲恋。

人間界に降りたとき、1人の男と恋に落ちる女神。けれど、存在の種類が違う神と人間が結ばれることはない。

男は女神が自分のあるべき世界へ戻っていったあとも、彼女との出会いの場所で彼女を待ち続ける。雨の日も、風の日も。

そんな男の姿を見て女神は雨を降らせ続ける。彼の自分への想いを流してしまおうと考えてのことだったけれど、止まない雨は人間界を疲弊させ、女神の父親は雨を止めるために男を殺した。

しかし今度は男の死を嘆く女神の涙で雨が止まなくなってしまう、という悲しい物語。
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