風に恋して
しかし、もう1つ。

エンツォは最後、リアの“人を殺めた”記憶を蘇らせてあげると言った。リアは今、その中で苦しんでいるのだろうか。それとも、もっと違う記憶の中を彷徨っているだろうか。

そうであればいいと思う。本物の記憶と偽物の記憶の狭間で混乱しても、見える記憶が幸せな記憶なら、少しでも苦痛が和らぐのではないかなどと……バカなことを考えてしまう。

「リア」

レオはリアの手をギュッと握った。

リアは悪くない。事故、と言ったら少し語弊があるかもしれない、だがそれ――彼の死――は確かにあの日に定められていた。それが本来の理、運命で……“自然”だったのだ。

リアはその運命に逆らって彼を救おうとしただけだった。誰もリアを責めなかったけれど、彼女自身が自分を責めた。自分が“殺めた”のだとショックを受けて、その後、副作用で寝込んで苦しんで……そして封じ込めた記憶。

自己防衛のようなもの。

リアが目覚めたときに、そのことを覚えていなくて正直ホッとしたのだ。レオも、リアの両親も、あの場にいたすべての者が。

だからどうか……このまま罪の意識に苦しむことなく過ごして欲しい。思い出さないで欲しい。そう願うのはもう遅いのかもしれないけれど。
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