風に恋して
セストが渋るのは、レオの力が強すぎるからだ。王家の血を引いた者は生まれつきそれなりの力を持っている。その後、成長と共にそれがどこまで強くなるかは個人差もあるが、クラドールとしての修練を積んでいない気――チャクラ――は繊細なトラッタメントに使える質ではない。

増して、チャクラ変換とは普通のトラッタメントよりも繊細な施術だ。

「こいつは俺の子だ。それなら俺の力にも耐えるだろう」
「ですがリア様は違います!」

レオはギュッとリアの手を握る。

そう、問題はリアがそれに耐えられるかどうか。お腹の子は確かにレオの子供だ。王家の血を継いでいることになるし、もちろん父親の力には順応を示すだろう。

けれど、リアは赤い瞳を持っていても普通の女性と変わらない。

「わかっている。だけど、リアはきっと耐えられる。あのときも、こいつのことを気にしていたから……」

レオがエンツォの風を吹き飛ばしたとき。目を開けたリアは真っ先にお腹の子のことを聞いてきた。

意識がなくても、本能的に身ごもっていることは理解しているはず。そして、我が子を守ろうと戦うだろう。少なくともレオはそう信じている。

「レオ様、セストさん……私のトラッタメントではここまでしかできません」

エレナが息を切らせて椅子に座り込んだ。

「あぁ、礼を言う。後は俺がやる」
「レオ様!」

セストがレオの腕を掴む。レオはその手を掴んでそっと引き離した。レオの力強い瞳にセストも手を離す。レオの真剣さが伝わったのだろう。
< 277 / 344 >

この作品をシェア

pagetop