風に恋して
「父親としてできる最初で最後のことになるかもしれないな」

そう言って、オビディオは自分の力をエンツォに入れた。あまり呪文は得意でないヒメナでもわかるほどの強い力。これが、王家の血……

「将来……俺の代わりにお前を守れるように、大切な人ができたときに守れるように」
「オビディオ様……」

ヒメナは不安になって、オビディオを見つめた。

エンツォはまだ幼い。今でさえ、あまり風をうまく扱えていないように見えたのだ。その力が大きくなってしまったら尚更使いこなすのが難しくなってしまう。

「心配するな。コントロールできるように入れてある。それと……しばらくは使えないようにも」

エンツォが呪文を学ぶ場へ行き、鍛錬を始めれば自然と鍵が外れていくだろう。

「ヒメナ……お前を、心から愛していた」

“愛していた”と、過去形の言葉をくれたのは……彼の優しさだ。ヒメナは精一杯の笑顔をオビディオに向ける。

「はい。私も、貴方を愛していました――」
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