風に恋して
「オビディオ様!いけません!」

ヒメナが胸を押し返すけれど、オビディオは離そうとはしてくれなかった。そして……

「ごめんな。俺は……お前が苦しんでいるのに何もしてやれない。どうして――」

掠れた声と、震えている身体。

ヒメナは抵抗をやめた。

もしかしたらオビディオは、エンツォが生まれたときから気づいていたのかもしれない。交流会になかなか顔を出さない自分に確認する機会がなかっただけで、ずっと1人で苦しんでいた。

王といえど、いや、王だからこそというべきか……一介の貴族の家への口出しをすることはできない。もちろん、国も関わってくる彼らの仕事や領地については管理もしているが、私生活については自由だ。

だから、カリストが愛人のもとへ行くことも、酒を飲んで荒々しくヒメナを抱くことも、すべてがオビディオの想像通りだとしても、傍観していることしかできない。

「後悔、しているか?あの日のこと」
「いいえ。あの“夢”は、私の支えだから……私はきっとエンツォのことを守ってみせます。幸せを与えてみせます。だから、貴方もマリナとレオ様を幸せにしてあげて……」

ヒメナは少し緩んだオビディオの腕をそっと解く。そして、背伸びをして彼の頬にキスをした。これが、2人の新しい約束。

家族を愛して、幸せにすること。

「わかった……でも、1つだけ」

オビディオはもう1度エンツォの眠るソファへと歩いていき、その場に膝をついた。そっと大きな手をエンツォの胸の中心――風属性のセントロにあたる場所――に当てる。
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