風に恋して

選択と結末

「エンツォ。調子はどう?」
「やぁ、リア。今日はいつもより気分がいいよ。天気がいいからかな」

しばらく雨が続いていたけれど、今日は気持ちよく晴れている。少し、風が強いけれど。

赤い瞳を使ってから数日でリアは回復した。エンツォもすぐに目を覚まし、今はリアが担当のクラドールとして彼を診ている。

エンツォの記憶は、あの虐殺事件の日のことを過去の“記録”通りに変えた。エンツォの出生についての記憶も閉じ、彼が純粋にヒメナを治すための鍛錬を始めたことになっている。

そして王家専属クラドールになったが、事故に遭って1年ずっと昏睡状態、最近目覚めたということに。1人で歩くことが困難なのは、その後遺症だと伝えた。

「ねぇ、リア。今日、出かけたらダメかな?」
「え……でも、どこへ?」

エンツォに食事を差し出しながら、リアが問う。

「母さんに、会いたいんだ……」

最後に、そんな風に聴こえた。エンツォには余命のことは教えていない。けれど、彼もクラドールだから……たぶんわかってしまうのだろう。自分の命が長くないということ。

「うん。じゃあ、レオに頼んでみる」
「ありがとう」

微笑んだエンツォの笑顔は、とても純粋な少年のようだった。
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