風に恋して
リアもクラドールであるから、記憶操作のメカニズムはわかっているつもりだ。本来の記憶に鍵をかけ、その上に代わりの記憶を植えつける。

代わりの記憶には、元の記憶の扉を固定するような役割を果たす軸となるものが必要になる。簡単に言えば、“思い込み”だ。

リアの場合、夢の最後に大きく響いた彼の声――エンツォのことが好き、というのがそれだ。

本来の記憶を取り戻すには、その表面の偽りの記憶をはがして鍵を解かなければならない。そうしないと、元の記憶と偽りの記憶が衝突して精神崩壊を起こす。

昨日、リアが足を踏み入れそうになったように。

記憶は繊細なものであるから、この呪文の解除には高度な技術が必要となる。脳に働きかけるだけでもかなりの集中力を必要とする上に、本来の記憶と偽物の記憶をしっかりと分けなければならないからだ。

更に呪術者の能力が強いほど、偽物の記憶は元の記憶に強く張り付き、解除が困難。

リアのほとんどの記憶を長い間偽物の記憶に保っていることを考えれば、彼の能力は並外れたものではない。この国に……この記憶操作を正確に解除できる人間が何人いるのだろう。
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