風に恋して
リアがため息をついたとき、ノックの音が響いた。少ししてカタリナがそっと部屋に入ってくる。

「あ……申し訳ございません。お返事がなかったので、まだお目覚めでないのかと」
「いえ、さっき起きたばかりで……」

窓際に立っているリアを見てカタリナが謝ると、リアは首を振ってテーブルについた。

すぐにカタリナが朝食を並べていく。

「もう、お加減はよろしいのですか?」
「ええ……もう、大丈夫」

身体は大丈夫だ。頭痛も治まったし、自分にかけられた呪文が何かもわかった。本来の記憶につながる大量の情報を一度に入れなければ問題ない。

(エンツォが好き……)

心に浮かんだそのフレーズに、リアは笑った。

偽りだと知った今も、その思いに囚われる自分が滑稽だった。それが呪文の効果であるとわかっていても、偽りを心の中から取り除けない。

自分がわからなくなる。

フッとため息をついてフォークを手に取ったリアをカタリナがじっと見つめているのに気づいて、リアは首を傾げた。

「あの……?」
「いえ、まだお顔の色が優れないようでしたので……あとでセスト様を呼んで参ります」

カタリナはそう言って微笑むと、リアに紅茶を淹れてくれた。
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