風に恋して
「そうか」

執務室で、カタリナからの報告を受けていたレオは目を通していた書類をまとめて立ち上がった。

「あの……セスト様は、リア様の記憶を直すことはできないのですか?」

カタリナはレオの隣に控えていたセストに視線を向けた。

「できないことはないですが、できるというわけでもありません」
「それは……?」

セストの曖昧な返答にカタリナが首を傾げる。

「エンツォはかなり細かい呪文を使いますから、リア様の記憶も複雑に絡まっていると予想できます。それをひとつひとつ、一寸の狂いもなく仕分けすることは困難なのですよ」

セストはヴィエントの王家専属クラドールの中で最も優秀だと言える。だが、本来の得意分野は外傷治癒。体の内部、まして記憶となれば脳の話になるリアの場合、少し荷が重い。

ディノはそういった呪文に詳しいが、腕はセストより劣る。イヴァンはすべての分野において優秀だが、どれも“ずば抜けて”ではない。言ってみれば広く浅く、なタイプ。

そして、この城にいるクラドールはこの国のトップと言っていい。つまり、城外にリアの治療を100%の確率でできる者がいる可能性は、限りなくゼロ。

「リア様以外に、あれを紐解けるだろうクラドールを私は知りません」

レオはセストの言葉にグッと拳を握った。
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