風に恋して
ドクン、と。リアの心臓が波打った。

――『俺と、結婚して欲しい』

夢と同じ声。

「お前が欲しい……とも言った。その夜、俺たちは初めて朝まで一緒に過ごした。俺にとって、忘れることなどできない日だ。お前にとってもそうだと……」

レオの手が、優しくリアの顎を持ち上げる。レオは悲しそうに眉を寄せ、リアの額に自分のそれをコツリと合わせてきた。

「お前が、俺を……俺のすべてを、初めて受け止めてくれた日だった」

苦しいくらいに響いてくる低音と、リアの唇を撫でていく熱い吐息。そして、ゆっくりと近づいてくる端正な顔。

身体の内側が震えている。心臓が、全身に伝えるシグナル――リアはこの感覚を知っている。

でも。

(私は、エンツォが、す、き……)

リアは頭に響いたその声で、反射的にレオの胸に手をついた。ピタリとレオの動きが止まる。

「わた、し……は……」

あぁ、違うのに。

“エンツォが好き”というのは、偽りの気持ちなのに。

けれど、それならば、自分が想いを寄せていたのは……

(誰……?)
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