「すき。」ただそれだけ…。
「すき。」
私は、大原 水菜(すいな)。いい子を演じている…。
いつかららかな?ああ、あのときからだ…


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「水菜。よく聞いてね。ママは、パパを…たの。だから離れなきゃいけない。ごめんね。水菜は…だよ。」

正直あの時何を言っていたかは分からなかった。聞き取りにくかった。3歳ぐらいの時かな?

パパとは一度もあったこともない。

二人ともいなくなって施設に行くことになった。でも祖母が引き取ってくれた。

嬉しかった。でも周りから

「水菜ちゃんはえらいねー!パパもママもいないのに立派だわー。皆のお手本だわ!」

「そうよねー。」

毎日言われるようになった。いい子でいなきゃ。と自分に言い聞かせた。いつも笑顔でいるよ

うにがんばった。皆の期待を裏切らないようにがんばった。

ある日近所にいた女の子が引っ越すことになった。

私は笑顔でそこ子に、

「すき。またね。」

とだけ伝えて別れた。

幼稚園ぐらいになったとき。

近所の男の子が引っ越すことになった。

佐藤 大知(だいち)君。

その子にも

「すき。またね。」

とだけ伝えた。

そしたらその子は、

「僕も。」

と言ってくれた。嬉しかった。

いい子をやめるタイミングがなかった。やめたかった。でもどんどん広がっていく。

幼稚園の皆にも、先生にも、近所の人にも皆に毎日言われる。

疲れた。でもやめられない。期待をうらぎってはいけない。

嫌われるから。

怖かった。

大知君。君の前では素直な自分をさらけ出せたのに。

いなくなっちゃった。

だからどんどんストレスがたまっていく。

そして、小学校に入る前に、祖母が亡くなった。

そこからもっと言われるようになった。

たまに母の姉、真侑(まゆ)さんが来てくれた。でも料理も一人で作って。

つらかった。

大知君。また会えるかな…?

会いたいな。

本当の友達がほしいな…。皆私を避けていく。

「すごいね。」

とは言ってくれるけど、本当の友達なんて、大知君しかいなかった。

早く会いたいな。
< 1 / 3 >

この作品をシェア

pagetop