黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
「……てめーの覚悟が理解できた」
吐き捨てるようにそう言うと、もう一度、無表情に俺の顔を見据えた。
……と思った、次の瞬間!
ダッ。
一瞬前までだるそうに突っ立っていたはずの良雄が、一気に体勢を下げていた。
そしてその次の瞬間には、驚くべきことに、既に、俺の懐に潜り込んでいた!
……目の前で起きた、まるでマジックショーのような現象。
約0.5秒前には、良雄と俺との間には、間違いなく座席3つ分……およそ、3、4mくらいの距離があったはずだ。
それが、今はほぼ0距離。
…何だか、目の前で実際に起きた出来事なのに、現実感が伴っていない…。
気がつけば、茫然と佇む俺の数十cm手前には、左足を俺の足元近くに大きく踏み込み、右肘を大きくひいた、良雄の姿があった。
なぜかスローモーションに見えたその姿は、まるっきり、強烈な右ストレートを放つ直前のプロボクサーのようだった。
一瞬だけ、顔の前に位置した左拳の後ろから、良雄の目が垣間見えた。
その目は、まるで物質を見るかのような、冷たい色をしていた。
──刹那。
ゴギィィイイイッッ!!!
……何かプラスチックの塊が砕け割れたような、木製の打楽器が叩き壊されたような…
…とにかくそんな濁音が、俺の脳内に炸裂した。
それと同時に、音の派手さに比例した、爆裂のような衝撃が、俺の左頬の内部で弾けた。
それらの音と衝撃が絡みあい、混じり合い、左頬から脳へと、一瞬にして突き抜ける。