黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
◆保身とプライドとの葛藤に苦しみ、動くことができなかった。


──数秒の空白。


俺は、怯えながらその場に立ち尽くし、良雄は、そんな俺の次の行動を、黙ったまま伺う。

周囲には、シート越しにこちらを覗き見ながら、沈黙を守り続けるクラスメイトが、幾人か。


バスの振動音。


……。



「……なるほどなぁ」



…そんな緊迫した沈黙を切り裂いたのは、言うまでもなく、良雄だった。

声に反応し、良雄の顔に視線を向ければ、『やれやれ…』といった苦笑いの表情で、こちらを見つめている。

良雄が口を開く。


「 “ 何も言わない ” 、“ 何も行動を起こさない ” …っつーことはよぉ。
それは例え黙っていようが…即ち。

…この俺に対して、『NO』って返答してるって…そう理解すればいーんだよなぁ…?
そうなんだよなぁ? 転校生…?」


言い終わった直後、一瞬、良雄の表情が苛立ちに変化する。

その変化を見て、俺は慌てて、良雄の誤解を急いで解こうと思った。


…が。


極度の緊張のせいか、声を体外に吐き出すことが、できない。

口を動かすための筋肉が硬直してしまっていて、とっさに、言い訳をするための言葉が、出てこない。


そうこうしていた、一秒足らずの間。

良雄は、微かにうつむきながら、だるそうにシートから立ち上がっていた。

と同時に、こちらを見据える。

見据えながら、先刻の言葉の続きを宣告する。
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