ジルとの対話
「フランツとリリーを探そう。」
スターリンは愛車をだし、鏡の道へわけいった。
鏡の道は、キースのいる世界とジルのいる世界との橋だった。
この世界を行き来する事が出来るのは、
世界の許しが必要なのだ。
世界にスターリンは会いに行った。
世界はこの世界の入り口に座り、門を司っている。門は玉座のような形をし畏怖を覚えさせた。
「リリーがそちら側の世界に行った。開けてくれないか。」
スターリンは車から降た。
「喜んで開けましょう。しかしリリーはここを出ていません。抜け道を通り、ジルの家まで行っています。私がそちらへやりました。しかしリリーよりデージーを探し、デージーの計画を変えねばなりませんよ。デージーは、この門を通らず、あちらの世界へ行きました。わたしにはどこから抜け出たのかわからないのです。気をつけなさい。」
世界は、門を開けてスターリンをキースの世界へ導いた。まず、キースの家まで車を200キロメートル近く走らせた。
まったく手がかりが掴めないまま、夕刻を迎えた。
どこへいくだろう。自分ならば、キースのもとだろうか。スターリンはキースの家を再び訪ねた。
古いフラッツ(アパート)が並び、しばし家々の軋む音が聞こえた。
赤い扉のフラット(アパート)が、キースの家だ。
扉を叩き、留守を確かめた。

この間の恥辱が胸を締め付けた。
アンナが扉を開けた。赤い髪のアンナは髪を短く刈り上げ、頭の先から耳の近くまでを伸ばしていた。髪を逆立てないモヒカンのようで、メイクは目もとを真っ黒なアイペンシルで大袈裟に塗っていた。
唇は真っ赤で、瞳は緑だった。
その翡翠のような瞳で、アンナはスターリンに微笑みかけた。
「アンナ久々だね。」
スターリンは笑みを浮かべて語りかけた。
「入って。」
アンナはスターリンを招いた。
「キースはどこへ行ったか知ってる?」
「どこかへ行っちゃって、わからない。」
アンナは赤いソファへ座るようにスターリンに言った。
アンナはベットに座った。とても狭い部屋で、
テーブルを置いたら歩く場所もなかった。
「キースはかえってくるかい。とても大事な話だったんだ。」
スターリンは落ち着かないように言った。
「待ってて、アランに電話してみるから。」
アンナはそう言うと、電話のあるキッチンへ行った。
アンナの声がくもって聞こえた。
「アラン、アンナ、キースそっちに行ってない?今スターリンが来てて、キースに急ぎの用事があるみたい。そう、すぐに帰して。うんー」
スターリンはアンナの声を聞きながら、
瞑想的な気分になった。
自分のするべきことを忘れたように、
ぼんやりと山吹色の壁を眺めた。
永遠とそれに伴う虚無感をスターリンは感じた。

死神だ。

そこに、すぐ近くにその存在を認めた。





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