ジルとの対話
Chord G♭

「次にTVに出演するなら、ちゃんと曲を覚えなさいよ!」
女性歌手が、バックバンドのギタリストにマイクを投げた。
「あんたの声が耳障りなんだ!曲なんか聞いてないじゃないか!この音痴。」
スティーブンはマイクを拾うとマイクに言った。
スタッフは笑いをこらえていた。
「なんなのよ。聞いてるわよ!変なソロ入れないでよ!首だわ。違うギタリストいない?」
スティーブンは解雇され、スタジオを後にした。
構わなかった。
彼の中には好きな音楽を仕事にする為、感性を失ってしまうという恐れが生まれた。
キースの真摯な音楽との対話を思い出し、ギターのリフと歌声の完璧な調和に飢え始めていた。
エフェクターを無闇に使おうとする歌手に嫌気が差していた。
鋭い叫び声がスティーブンを再びヘヴィメタルへと導いた。
スティーブンは新なバンドを結成しようとポスターを道端のそこかしこに貼り付けた。
有名な歌手のバックでギターを演奏したことがあると謳い、さまざなライブハウスに赴いた。

オーディションを開催すると、キースとアランがオーディションを受けに来た。
スティーブンは少し笑い、少し瞳を潤ませながらスクリューを再結成させる事が出来た。
彼らはリーダーのアランの家で再会を祝った。

「本当に音痴にも程があるよ。全然リズムが合わなくてさ。」
スティーブンが事件を話した。
「だから、キースじゃないと駄目だろ?
お前はわかってないんだよ。今の歌手は俺たちの音楽とは全然違うんだから。」
アランは笑いながらスティーブンの背中を叩いた。
「馬鹿だなスティーブン。後1年我慢したらなにかしら自分の好きなように出来たんじゃないか?」
キースが少し酔いながら言った。
「キャリヤは十分積んだからいいよ。
エディーと知り合いになったよ。エディーはさ、ヘヴィメタルが自分の表現に合ってるって。皆でツアーを回ろうぜ。」
スティーブンが足を投げ出しながら言った。
「エディーか!!それすげぇな。」
アランは酒を飲みながら言った。
「アランとエディーのベースバトルだな。」
キースが笑った。
すると、電話が鳴った。
アランはやれやれと電話をとった。
「はい、あぁアンナか急ぎの用事か?わかった。」
アランはキースに向かってアンナから用事があるから帰るように言われたのを伝えた。
「アンナは、まだ怒ってるかな。」
スティーブンがため息をついて言った。
「大丈夫だ。アンナはああ見えてそれほど根に持ってないと思うから。エディーとの話期待してる。」
キースはそう言ってアランの家をでた。
すると、フードを被った怪しげな男が道を挟んだ向かい側のフラッツの間にいた。
キースは気味が悪いと思いながら、ジルの話を思い出していた。
「死神か。」
キースは呟くと、死神の姿は消えた。
胸騒ぎがして、キースはアンナの家に走り出した。
嫌な予感ばかりが浮かび、それを振り払うように走るスピードは上がって言った。
ドアに手をかけると、静電気が帯びた。
「アンナ!!」
キースが叫ぶと、驚いた顔のアンナとスターリンがいた。
「スターリン…。」
キースはなんとも言えない表情でスターリンを見つめた。
「実は、なんと言っていいか。」
スターリンがいいよどんでいると、キースは部屋に入った。
「死神か?アランの家から出る時に見たよ。
フードを被った。いかにもって感じでね。
悪ふざけが過ぎないか。いったいなんなんだ。あれはジルか?」
キースが苛立ちながらスターリンに怒鳴った。
「そうじゃない。」
スターリンが立ち上がるとキースは彼の胸ぐらを掴み、スターリンを脅すような顔をした。
「帰ってくれ!」
キースはスターリンを家から追い出した。
「ちょっとキース。なんでそんな風にするのよ。止めて。」
アンナはキースの肩を押さえた。
「アンナ、アンナはどうとも思わないのか、スターリンはアンナに会いに来てるんだろ?何も感じないのか?一緒にジルの家にでもいたらどうだ。」
キースがそう言うと、アンナはキースの肩を離し、家から出ていった。アンナは怒りと悲しみで目に涙を浮かべていた。どうしていつもこうなの?
「私は可哀想なあなたの世話をしてただけ。いつだって願い下げだから。」
アンナはドアを蹴って、スターリンとともにキースとアンナの部屋を後にした。
キースは部屋にひとり、座り込んだ。
スターリンはキースの家に暫くデージーの姿を捜していたが、この日は現れなかった。
関係が悪化した今、スターリンにキースを救う手立てはなかった。

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