ジルとの対話
「それは散々だったな。」
アランがキースの隣で呟いた。
キースが帰った後、アランは気にかかりキースの家を訪問したのだ。
「アンナがいなきゃスクリューはやってけない。」
キースは肩を落とした。
「まあ確かにそうかもしれねぇな。だけど、大事なのは、バンドより本人の気持ちだ。バンドなんかこの世にいくらでもあるし、他のドラマーなんかいくらでもいる。でもな、アンナはこの世に一人しかいないんだぜ。大切にしろ。スターリンといてアンナが幸せなら、アンナとキースは別れないと、アンナは幸せにならないんじゃないか。だったら、別れてやれ、お前を幸せにしたのは俺なんだって胸張れるように、自分のプライドを棄てるな。」
アランはキースに言って、自分の家へ帰った。
アランの言う通りだ。
キースはベッドに横たわった。
静か過ぎる暗闇、車のヘッドライトが部屋を生き物のように通り過ぎる。
雨の音が次第にして、アスファルトの匂いが立ち込めた。
このまま夜が明けずに、闇に生きていられたらなら。
キースは部屋の窓から、街並みをながめた。
街灯には、地面だけが照されていて誰の為に灯るのか、知れない。
音楽も街灯に似ている。
見知らぬ誰かのために演奏され、どんな物になるのか、音楽だけがキースの生きる理由だから、窓を眺めていることが出来た。
死神など、恐ろしくもなかった。
恐ろしいのは、音楽に突き放される事だけだ。
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