魅惑のくちびる

雅城はとっても甘い顔立ちをしている。

大きくきりっとした目と、顔の中央で目立つきれいな鼻筋。

少しマッチョな体つきで、しかも仕事のできる人。

密かにカッコイイと思っている女性社員はきっと多かっただろうと思う。


かくいうわたしも、実はほのかに恋心を抱いている一人だった。

だけど、仕事で全く足元にも及ばない程恐れ多い存在だったから、そのときは告白しようなんて、これっぽっちも思っていなかったんだ。


そんな人の、彼女。

田上さんってどんな人なんだろう?

わずかに感じた胸の痛みと共に、頭の中ではあれやこれやと想像が膨らんで行った。


「夕べさ、もうダメかもしれないって言われたんだ」

カウンターテーブルに目線を落とし、がっくりと肩の力が抜けている。

「ダメ……って……」

なんとなくわかってるくせに、自分の都合のいい方ように想像したくなくて、こんなことを言ってしまったけど、雅城にとっては酷な質問だったなと後から反省をした。


「もう、オレとはやっていけないかもって事。でも、オレは何がそういう判断をアイツにさせたのかがよくわからないんだよな」


大将が置いたばかりの鱚の串揚げに手を伸ばしてかぶりつくと、熱々の蒸気を逃がしながらむしゃむしゃと口を大きく動かした。

「女の人の考えてること、オレはいつもよくわかんないや。そんなオレだからダメなんだろうな」
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