secret name ~猫と私~
それからポツリと、「佳乃は違うかもしれないけど」と前置きして、美穂がどこか遠い目をして呟いた。

「私はさ、結婚しなきゃ!って焦ったし、主婦で子持ちとか充実してるんだろうなーって思ってた。
でもさ、それも相手側からしてみれば違うんだよね。」

手持ち無沙汰なのかグラスを握っているが、飲む様子はない。

「専業主婦って響きは、魅力的かもしれないけどね・・・専業主婦からしてみれば、子供がいなければもっと自由になれる。」

「社会から隔絶されてるんだよね。出来た友達といえば、子供の幼稚園とか、子供がよく遊ぶ子の親とかだし。」

美穂に合わせるように、優子も苦笑しながら続けた。

「それって私の友達です!って言ってもいいのか、すごく悩んだよ。誰々ちゃんのママって呼んで、呼ばれてさ。」

結婚して、相手の姓名を名乗る。
子供が産まれたから、子供の母として呼ばれる。
独身であった頃のように、自分の名前で呼ばれることなど、ほとんどなくなってしまうのだ。
こうやって大学時代の友人と集まる以外は。

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