secret name ~猫と私~
つい真面目な顔をして話を聞いていると、頼んだ料理をつつきながら、美穂が笑う。

「まぁ、要するに無い物ねだりだよね。
子供がいて、それはそれで幸せだし。」

照れ臭いのか目を合わせようとはせず、塩辛を頬張る。
思ったより苦味が強いそれは、ビールを飲むにはちょうど良い。

「いなければ自由になれるけど、いるからこそ楽しいこともたくさんあるしね!」

つられて優子も笑った。

二人とも、先程の陰りのある顔ではなく、幸せそうだ。
結婚と子育てでそんなにも辛いのかと、彼女らが心配になった佳乃だったが、どうやら少しだけ愚痴を言いたかっただけらしい。

「旦那にまで“お母さん”って呼ばれたときは、キレそうだったけど。」

「私はあんたの母親じゃなーい!」

「そうそう!」

面白おかしく怒る二人につられて、佳乃と香里も笑った。
すっかり“妻”と“母”の顔をした美穂と優子が、遠い存在に思えたのは、心の片隅に追いやりながら


「だから佳乃がちょっと羨ましい!私も恋したーい!!」

「してないし!それに、そういうのは旦那さんとしなさいよ。」

「無理無理!旦那のことは好きだけど、それってもうトキメキとか通り越してるから。」


お互い、羨ましくもあり、寂しくもある。
美穂の言う通り、無い物ねだりだとは分かっていても。
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