secret name ~猫と私~
何が悪いというのだろう。
会社の為に、頑張っているというのに。
のんびりとした社長の態度に、溜め息を吐きたいのはこちらのほうだ。

「う~ん・・・こういうのも、ちょっとアレなんだけど・・・君が忙しすぎて夕食も食べていないんじゃないかって心配になってね。」

当てられてぎくり、となるが、表には出さない。

「ご心配、ありがとうございます。」

この手の話はそろそろ終えて、いますぐデスクに戻りたい。
きっと今頃、部下が頼んでおいた納品書をまとめて出しているはずだ。

「やっぱり、食べて無いよね。うん、君さ・・・」

「あの、ですから・・・」

社長はどんどん、自分の中で勝手に話を完結させ、進めていく。
順序や理由が欲しい佳乃としては、こういうところが本当に苦手だった。

「猫、飼ってみない?」

「はい?」

突然のよくわからない発言には慣れてきたつもりだったが、今までで一番の驚きだ。
思わず声が裏がえってしまった佳乃をよそに、社長は言葉を続ける。

「うん、だから、猫。君聞いた事無い?」

「あの、猫って・・・猫、ですか?」

「猫。僕も飼ってるんだけどね。」

社長は部屋の隅を見やる。
そこには佳乃が思っていた猫ではなく、一人の女性が真剣にパソコンの基盤を持ち上げて、ルーペで眺めていた。

彼女の何処が猫なのか。

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