Un chat du bonheur
「レア…!」

「冗談よ」

濡れて重くなってしまったコートを脱ぎながら、レアは笑った。

「フェリクスは、優しいもんね」

「そんな、こと」

自分が悪戯するつもりでバスルームに連れてきたフェリクスは、困った様に笑った。
レアもにこりと笑うと、バスタブの縁から立ち上がる。

「さて…本当に風邪引く前に軽く入っちゃう。…たまには、ご主人様がお風呂にいれてあげましょうか」

「い、いい!」

フェリクスは情けない声をあげながらバタバタと出て行く。
レアはまたおかしそうに笑うと、服を脱いですっかりお湯が入ったバスタブに身を沈めた。


秋の冷たい雨に冷えた身体。
その身体に、このお湯は心地よかった。

それほど疲れている自覚はなかったはずなのに、ついうつらうつらと眠りに落ちそうになる。

もう少し、もう少しだけ。

この気持ちのいいまどろみを、楽しんでいたい。
レアが瞳を閉じていると、バスルームの外からフェリクスの声が聞こえた。


「レア…?タオルここに置いておくよ。…レア?」

なんとなく、返事をするのが億劫だった。
正確に言えば、頭が朦朧としていた。

控え目にノックされたのもわかった筈なのに、気だるげに顔を上げると、心配そうなフェリクスの顔と目があった。

「レア…顔赤い」

「あなたも、ね」

「風邪、ひいた?」

意を決した様に、フェリクスが湯船に腕を突っ込んでくる。
ごめんね、という声がレアの耳に届いたのだが、そこでレアの意識が遠のいていった。

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