とある神官の話




「カイムとですね、私は今勝負中なのですよ」

「勝負?」




 我に返った私は、ゼノンの話に耳を傾けた。街中では人が雪掻きをしている姿が目に入り、寒そうに顔を赤らめている「は?」
 なに言ったこの男は。



「シエナさんに見合ういい男になろうという勝負ですよ。彼は中々いいライバルですね」



 なんじゃそりゃ、と私は思わず笑ってしまった。カイムはまだ少年であろうに。ライバル?可笑しい。本当に。
 急に笑い始めた私に、ゼノンが黙って「シエナ、さん?」と顔を覗き込む。

 この、人は――――。

 私は狡い。彼の好意を知っていて、気がつかないふりをする。それは狡いことだとわかっている。彼もわかっているのだ。だから、彼は優しい。
 馬鹿なんじゃないですか、と返しながらは私は歩きだす。



 ここには私を、呼んでくれる人がいる。私を、馬鹿だと笑ってくれる人がいる。

 ならそれで、いいじゃないか。


 過去がどうであれ、今、私は、セラヴォルグの娘としてここにいるのだから。






Chapter5、了
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