とある神官の話



 報告をしていた神官が、ずっと黙っているロッシュに不安を覚えたらしい。どうもこう、口数が少ないのである。ミスラいわく「ハイネンから少し分けてもらえばいい」というほどなのだ。
 ロッシュ高位神官がそんな寡黙な人物だというのは、バルニエルにいる神官ならば知られていることであろう。だが生憎神官に成り立ての新人はそうもいかない。

 左目は眼帯に覆われているし、寡黙。十分威圧感があるなかで、新人は必死に続けていた。



「ご苦労。下がっていい――――次」



 ほっとした新人と入れ変わるように、神官が入った。
 黒髪に青の瞳。そして性別不詳なその顔は整っていて、女性を思わせる。だからだろう。新人が一瞬そちらを見てほっと見つめたのだが……残念。その者は間違われることに慣れているため無視した「只今戻りましたー」



「ああ、で?」

「解決して来ましたよ」

「……」

「睨んだって何も出ませんが」

「とっとと言え馬鹿者」



 おお怖い、とふざけた男―――レオドーラ・エーヴァルトは肩をすくめ、頼まれていたことの結果を述べていく。
 それはつい最近、"亡霊を見た"という話のことである。
 "亡霊"ならば別に珍しくない。魂を本来あるべき姿へ戻すのも神官の仕事もあるのだ。ロッシュが引っ掛かったのは他にも理由がある。

 亡霊は黒髪の女を探し、危害を加えるのだ。目撃者の衝撃から、黒いマントのようなものとフードを被ったその影は―――ロッシュは"幽鬼"ではないかと思ったのだ。
 "幽鬼"は元はヒトである。だが魔に魂を売り渡した成れの果てなのだ。魔物の一種とされているが、彼らは喚ばれて姿を見せることが多い。
 つまり、召喚主がいるのだ。




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