とある神官の話
「現在の教皇制になる前から、術式などを研究する者らがいた。今でもいる研究者の類にあたる」
失われた術式などを復活、または調べている神官の研究者は今でもいる。特殊なものが多いため、発動できる人がいないというものもあるのだ。
研究し、危険だと判断されれば厳重に封じられ管理される。
そこまで私は思い出しつつ、フォンエルズ枢機卿の言葉は続いた。
研究者は、様々な術に手をつける。それは<フィストラ>の名のもとに、己の役目を果たすため。危険を回避するためだった――――はずだった。
研究対象のものの中には強大な力を発揮する術もある。研究者の中にはそういったものに興味本位であれこれ手をつけ、のめり込む者も出てくる。
その術は本物か、今でも発動させることが可能かなど"ただ調べる"のは普通の研究者と同じであるし、その時点で危険だと感じれば即座に中断し審判されるのも一般的だ。彼らはその危険性を無視したのだ。
新たなる力を求める探究心、あるいは興味……彼らは密かに危険性を孕んだ術などの研究そのまま続けていった。危険性を省みることなく。
それがいかに、危険なことかを理解していたにもかかわらず。
彼らはそんな己が危険だとされ"排除"されぬように上手く表と裏を使い分け、研究を続けた。
「その結果、扱いきれないものが暴走したり、扱った主を術式が食い殺す、体を乗っ取られるということが起こりはじめた。―――今度は彼らは何をすると思う?」
「まさか…」
「生身のヒトで実験するようになったのだ」
――――人体実験。
淡々と続けるフォンエルズ枢機卿とは逆に、ブランシェ枢機卿の顔色が変わる。
無理もない。
後に教皇制になると、さらに活発となった。枢機卿や神官の一部が水面下で密かに研究を続け、実験を繰り返した。それを――――「現在も…?」
フォンエルズ枢機卿は無言のまま、僅かにため息をついた。
「まあ、確たる証拠はないし――――関わった連中は殆ど死んだ」
「死んだ?」
「神官や枢機卿がそんな残虐な実験をしていることを知ったアガレスが、殺したからだ」
残虐な実験などは、闇術に分類される。それらに手を染めるのは"闇堕者"だと言われていた。それなのに、実はそれらを裏で操っていたのが―――枢機卿や神官であったという事実。
枢機卿らは、己がした実験を"闇堕者"になすりつけることもあったという。
アガレスがそんな事実を知ることになったのは、前々から調べていた人物がいたからであった。それが彼の友人で、彼よりも神官歴の長いセラヴォルグである。
「セラヴォルグが昔から調べ、何かしらを掴んだ頃――――奴は知ってしまったのだ」
何を?
私より先に、ブランシェ枢機卿がそう聞き返していた。何を。何をアガレスは知ったのか?
フォンエルズ枢機卿は、あえて断りを入れた。これは私が知っていることと、ハイネンから聞いた話しをまとめていると。ハイネンのほうがまだ詳しく、それをいうならセラヴォルグが一番知っていたはずなのだと。
「彼が大切に思っていた女の、本当の死因をな」
やはり――――父さん。
貴方は生きていたほうがよかったかもしれない。そう思ってしまう私に、一体何が出来るというのだろう……?
<真実を探せ。断罪せよ>