とある神官の話




「セラはどうした」

「…彼なら後で合流するらしいですよ」

「そんな顔をするな、ハイネン」




 何かを堪えるような顔をしている彼にそういえば「貴方こそ」と続けられた。




「ちゃんと寝ていますか?食べていますか?そう聞きたくなるくらい顔色が悪いですよ」




 心配するな。
 私はやや不安げな顔をしたハイネンの肩を軽く叩く。


 ずっとだ。ずっと私は痛い。
 気を張らねば崩れそうだった。足元からずぶずぶと沈んで、窒息してしまいそうだった。だから、黙っているよりも動いているほうがよかった。…何も考えずに済むから。
 愛する人との別れ。死。とてつもなく重くのしかかり、痛む。一瞬自身の死を考えた。しかし―――彼女は生きてと言った。私の分まで生きて、生きて生きて生き抜いてと。


 私は、前を向く。
 彼女が望むのは、悲嘆し腑抜けた男ではない。アルエはそんな私を見たくはないはずだ


 私はこの痛みを抱えて、そして過去を愛そう。全てを。





  * * *




 ―――――???年



 とある土地へ探りのために入り込んだ神官によって発覚されたこと。

 大規模な、実験施設――――。

 そこでは様々な実験が繰り返されていると報告されたのである。

 辺鄙な土地で、上手く隠しながら行われていたそれに、枢機卿が関わっていることが確実となった。無論それは大問題である。そんな報告を受けた連中が話しあいで決めたのは、大規模な討伐戦であった。

 町と村の間のような規模のその土地は<ジャナヤ>という名である。


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