とある神官の話
「ど…ういう、ことだ」
「アガレス」
返り血を浴びたらしい、顔に血がついたままのセラが、横に並ぶ。私が広げた書類や書物に目を滑らせ、握る記録らしきものに目を見張る。
そこには、知りたかった"真実"があった。淡々と綴られたそれは、ヒトをヒトだと思っていないようなもの。
<―――繰り返しの実験による破綻。力を封印するという言葉を残し死亡。死体も何か役立つかと思って切り開いたが、所詮死体らしい。ならば身篭らせた先での子に期待したほうがよかったかも知れない>
――――それは。
「そんな……」
"好きよ。アガレス"
奴らは、水面下で彼女で実験していたのだ。彼女の能力を何とかしようとして。私は、助けるために報告をして、調べてもらって………。
私が。
私が、彼女を殺した…?
もし、聖都の上の連中―――"奴ら"に知られなかったら、彼女はどうなっていた?"実験"によって死ぬことはなかったのではないか。私が。奴らが。
何かが、壊れるような音がした。
「しっかりしろ!アガレス・リッヒィンデル!」
ああ。セラヴォルグ。
私の友よ。
私は、お前のように強くはないのだ。
* * *
―――――。
飛び起きた先は、薄暗い部屋だった。呼吸が乱れ、頭痛がした。張り巡らせた術に異変はなく、息を吐く。
実験に関わっていた者などを、私が殺害してから……約二十年ほどとなった。彼女に直接手を加えた連中の意思を継いだ連中を、私は殺した。問答無用に。
終わるならそれでいいと思った。終わらせることが出来るなら、命など差し出そう。
私は赦せなかった。
赦せなかったのだ。
「――――待っていろ」
<神託せし者>を引き継いだ貴様を、私は殺してやる。次は、次こそは絶対に殺してやる。
男は憤怒と憎悪と復讐にその身を堕とす。
愛すべき者は、既に亡い。