とある神官の話




 そういうのはどこからともなく出てくる。本人らを無視して、だ。
 二人きりでいたとか、手を握っていたとか―――付き合うようになって、数日後に知られてしまったのである。


 私自身、付き合っているということは互いに知っていればいい。シエナだってそうだったから、近いうちに友人らに話せばいいと思っていたのだが。
 キース、ランジット、それから私とシエナが揃っている中、ニヤニヤしたミイラ男(ハイネンである)が「面白い話を聞いちゃったんですがー」と登場した。そしてこの二人(ミイラ男を含めると三人)にばれた(隠していたわけじゃない)。

 私は幸せ自慢がしたくて少々うずうずしていたからばれても構わなかったが、シエナはというと「わ、私図書室に用事ありませんけど行かなきゃならないっぽいので行きます!」と顔を真っ赤にさせて―――逃げたのである。

 後に聞いたが、理由は恥ずかさと照れが入り交じってどうしようもなかったから、というものであった。
 



「私はそのあとのカオスを忘れてはいないからな…」




 あのときのことを思い出した私に、追い討ちをかけるキース。

 ハイネンによってばれたあのあと、更に色々とあったのだが…。

 何があったのか。
 ハイネンが"面白いことを聞いた"なら、ハイネン以外の人も耳にしている可能性はある。そしてそれが、シエナのことを知る人物の耳にも入る可能性も、だ。

 ハイネンの登場のあと、ものすごい顔 (と勢い)でキースのもとにやってきたのはアゼル・クロフォードだった。私とランジットの目の前で胸ぐらを掴まれて揺らされるキースを見た。そのあと、私もされかけた。恐るべしアゼル・クロフォード。

 ハイネンとアゼルと、その場はカオスとなって大変だったが―――今はとりあえず落ち着いている。




「まあ、その、なんだ。めでたしめでたしってことだな」

「あー、のろけばっかで俺死にそう。よし、飲むぞ!」

「というところで、私は帰ります」

「おい」

「明日、デートなんですよ」

「遠足を楽しみにする子供か、お前は」




 力説、または強調していってやる。ランジットは文句を垂れている。しまいには「爆発しろ!」などと言われながら、私は彼らより先に店を出た。


 ――――ゼノンが去ったあと、ランジットは頬杖をつきながら「あいつ、わかってんのかな」と。その言葉にキースは首をかしげた。が、閃いた。同時に自分の身に飛び火してきそうだなという予感。




「バルニエルのアーレンス・ロッシュと、レオドーラ・エーヴァルトを敵に回すことになるんだぜ」

「あれか。保護者と恋敵VSゼノンっていう」




 バルニエルのアーレンス・ロッシュといったら、シエナの保護者的な位置にいる人物である。息子が二人いて、それからレオドーラ・エーヴァルトもバルニエルの神官である。レオドーラはシエナと幼馴染みの男だ。ゼノンの恋敵でもある。いや、だった、か。

 ロッシュ高位神官も、レオドーラもシエナを大切に思っているのを知っているからこそ、キースはつっぷしたくなった。

 



「まあ、そのときはそのときだ」




 忘れるように酒に口をつけた。






  * * *



 お給料で新しい洋服と靴を買った。

 おしゃれなんてさっぱりだから、流行りなどは興味がない。買うときは値段と好みで選ぶことが多い。私のおしゃれ度がないのは、父のせいではないかと最近思う。とはいえ、父のように大絶滅はしていない、はずだ。

 デート、とやらにどういう格好がいいのかさっぱりだった。なので迷ったあげくその相手に聞いてしまった自分がいた。だって、間違ってたら嫌じゃないか。
 すると彼は「そ、そうですねぇ」と私のテンパりが移って、二人して考え込むということになり、笑ってしまった。何でもいいじゃないかと。さあ訓練するぞ!っていうわけめもあるいに。
 思いだすだけで、おかしい。


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