とある神官の話
質問に誘いにと言葉が飛び交う。
一つ一つ答えてやるにも、何だか面倒である。
さて、というときに「おいゼノン。行くぞー」とやる気のない声。見かねたランジットがようやく助け船を出したのだ。もっと早く出せ、などと文句をいいたくなる。
そこで、そうだ、と閃いた。
恋人がいるか、というそれに答えてやればいい。そうすれば、誘わなくなる。ああ、恋人!なんていい響きだろう。
ここでにやければ台無しである。引き締めなくては。
「ええ。恋人はいますよ」
――――――………。
「―――って自慢げにいいやがった」
それはつい最近の出来事だった。
話していたのはランジットで、聞いているのはキースである。
久しぶりに飲もうぜ、といったのはランジットだった。とくに反対することもなく、こうして集まったのだ。
話をしたランジットも、聞いていたキースもなんとも言えない顔をしている。
「あのときの女の子らの顔がなんともまあ、見事なものだった」
嘘でしょ、というような驚き顔だったが、別に驚くことでもないだろうにと私は思った。恋人くらいいともおかしくないだろう。
「なんというか…幸せオーラ全開だな」
「幸せですから」
「俺に少し分けろよ」
「嫌です。減ります」
恨めしげに見てきたランジットを無視して、酒に口をつける。
少し前まで、恋人という関係ではなかった。片想いで追いかけていただけだった。そんな追いかけっこに終止符がうたれて、すこし。
間違いなく、私は幸せである。
「だが、お前少し自重しろ。幸せなのはわかるが、彼女をあまり困らせるな」
―――そうなのだ。
一目惚れをし、今に至るまで様々なことがあった。どれもこれも大変な出来事だった。まあ、なかにはノーリッシュブルグのときのような嬉しい出来事もあったが。
恋には障害が付き物である。
といっても、つきすぎではないかと文句をいいたくなる。
障害を無事(?)乗り越え―――どころか破壊した現在、少しずつ彼女も私に慣れてきている。恋人らしいことも、しかり。
そう。恋人!
自分でいっててにやけたくなる。が、今ここでにやけたら、二人から文句を言われるだろう。
私自身、関係が変わったからとはいえ、別になにかをどうする、という焦りはない。むしろ、ゆっくりでいいと思っている。恋人となる前とあまり変わらないともいえるが、違う。触れても、怒らない。いや、慣れないからシエナは真っ赤になってしまうが、くそ。どうしたものかと私は悶える。うぶだ。私だって男。あれやこれやと―――否!嫌がることはしない!私は「おーい」……何だ。
「お前、今話聞いてなかっただろ」
図星である。
「仕方ないな。ようやく片想いが成就したんだから―――一時期事件めいてしまうくらいに」
「あー……」
思い出したらしい間延びした声が響く。
私がストー、じゃなくて追いかけまわしていた(この言い方もどうかと思うが)あの頃も、ちょっとした話題になったのは知っている。その波がシエナへと向かってきたのも。
この顔が好きだという女性らがいるのは知っているし、声もかけてくるのも度々あった。
そして、ファンクラブ(…)とやらが、シエナに詰め寄ったという。私との関係や、どうやってたぶらかしたのか…等々言ってきたのだ。シエナは悪いことなどしていない。むしろ私の被害者(自分でいうのもあれだが)だ。しているのは全部私であるのに。
あの頃のことを考えると、シエナにとって大迷惑だっただろうなと思う。
いつしかそれが、"ゼノン・エルドレイスが女性神官を追いかけている"となった。
一部事情を知る者(局長やここにいる二人など)らの間では、追いかけてているというそれを見守るという暗黙のルール状態となっていたことを考えると、私はシエナを追い詰めている感が否めない。…すみません。
私が追いかけているというのが日常化しつつあったが、それはずっと続くわけがない。晴れて私がシエナと恋人となれたという事実はまわりを少々騒がせたのである。
それがつまりキースのいう"事件"というけこだ。