甘いケーキは恋の罠
彼は私に気付いていない様子で隣にいる女の人と笑い合っている。
そんな二人の姿を見て胸が騒ついた。
「えっ!ねぇ瑞穂!あの人ってクラウンのパティシエさんだよね!?隣の人ってもしかして彼女かなぁ?美男美女ですっごい絵になる~。」
ゆきの言葉に半ば放心しながら頷く。
―――そうだよね、彼女くらいいるよね……。勝手に一人でドキドキして、ばかみたい…。
それからは買い物の気分にはなれなくて、さっきの匠さん達の姿がずっと頭から離れずにいた。
ふとガラスに映った自分と目が合うととても情けない顔をしているように見えた。
無理矢理にでも口角を上げようとするが、笑顔が作れない。
「あっ!ねぇ瑞穂あっちに何かあるみたいだよ?」
ゆきの指差す方へと目を向けるとそこには何やら人だかりができていた。
「行こっ!!」
私の背を押し、ゆきは人だかりへと進んで行く。