【完】Rose.


「…貴女の心を、そんなに固く閉ざすようにしたのは、誰なんでしょうね」

ひやりと、背筋が冷えた。


『こんなに役に立たないなんて、産まなきゃよかった』


『…まま、』


『そんな風に呼ばないで、いらない、あんたみたいな子』


私が、悪いの。


…役に立たないから。


可愛く、ないから。


でも、でもね、大好きだったから、怒った顔しか覚えていないけれど、それでも、姿が見えるだけで幸せだった。


『…まま、どこかいくの…?すみれもつれてって…っ』


荷物を抱えて、小さなアパートを出て行く後ろ姿を、裸足で追い掛けた、暑い夏の日。


走っても走っても、追い付かなくて、足の裏がボロボロになるのも気が付かなかった。


今でも覚えてる。


『ま、まっ』


泣いちゃいけない、泣いたら怒られるから。


必死にこらえて、もう見えなくなった後ろ姿に呼び掛けた。


私、頑張るから。


悪いところ、直すから。


笑わなくていいから。


ご飯も作らなくていい。


時々でも帰って来てくれるだけで、いいの。


だから、一人にしないで。


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