【完】Rose.
「…っ、すみません。入り込み過ぎました」
気が付けば目の前で、専務が顔色を変えて焦っている。
どうしたものかと、首を傾げれば、
「気付いて、ませんか?…涙が、こぼれてます」
そう言って、どうぞとハンカチを差し出す専務。
涙…?まさか、涙なんて、流したことも忘れるくらいご無沙汰だったのに。
今さら、流れるの?
そう思って頬を触って確認する。
「……ぁ」
ひんやりとした液体が、ツーと筋を作っていた。
「………」
どうして。
こんなに弱いの。
環境が変わって、動揺した?
自信が持てなくて、情緒不安定?
走り続けて来たのに、少しの休息で、気が緩んだ?
弱い私は、いらないのに。
「すみません」
そう一言、謝罪する。
「どうして?今のはどう考えても、私が悪い」
そう言ってくれる専務に、苦笑いがこぼれる。
「いえ、専務に、そんなご心配までおかけして、…本当、私って何をしてるのか」
情けないを通り越して、惨めだ。