野獣な執事とワンコお嬢様
実際、体は相当キツい。



だけど、琴音のためなら動ける気がする。



「お前は少し甘えなさい」

「そんなことを前にもシェフにも言われました…」

「琴音もお前のために必死なんだって。わかってやれよ」

「はい…」



世の中のことを、すべてわかってるつもりでいた。



最近、それが通用しない。



ガキの頃、俺に関わった大人は口をそろえてこう言っていた。



『頭はいいのに心がない』



幼かった俺の、知りたかったことは他にあって。



母親の愛情でも、父親を敬う気持ちでもなかった。



興味のあることを親から学ぶことで関わりを持っていた。



それが俺の愛情だったから。



そのせいで、たくさん泣かせた琴音。



『お嬢様になんてことをっ!!』



父の慌てる顔なんか、毎日見ていた気がする。



『ヒョウ、琴音と遊ぶのは楽しいか?』



琴音の父から聞かれた言葉だ。



『お前は琴音といる時だけ、子供の顔をするね』



怖い印象だった琴音の父に優しく話しかけられたのは、きっと初めてだった。



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