家元の寵愛≪壱≫
現在の時刻、16時30分を過ぎたところ。
もうすぐ、お夕飯の時間だというのにお昼ご飯?
私が怪訝な顔つきだったからか、
「社会に出たらよくある事だよ。取引先の都合に合わせて、こんなんザラだし。って言っても、茶道家の嫁に言っても意味ねぇか」
「あっ、いや……そんな事ないです。ありがとうございます」
「フッ、別に礼なんて……。それよか、ここで何してたの?」
「へ?」
圭介さんは目の前に陳列された本を指差し、
私が場違いな所にいると察したようで……。
「実は……。隼斗さんが愛読している車雑誌の発売日が今日だと思って立ち寄ったまではいいんですが、何て名前だったかハッキリ憶えてなくて……」
私は素直に打ち明けてみる事にした。
もしかしたら、知ってるかもしれないし。
期待の眼差しで見つめると、
「それなら、多分………」
彼はそう言うと、10歩程歩いて、
ゴンドラエンド(陳列棚の端)に置かれている中から1冊を手に取った。
「ん、コレだと思うけど」
彼に追いついた私にそれを手渡した。