家元の寵愛≪壱≫


ステージ上に準備された物を使って、

ハンドドリップで香ばしい香りの珈琲を淹れた。


茶道・香心流の『家元』なだけに、

誰もが極上のお抹茶を点てるのとばかり思っていた。


だが、彼は父の好きな珈琲を淹れたのである。



「んっ!!私好みの薄味で美味しいよ。ありがとう、隼斗君」


それを口にした父親は優しい笑みを浮かべた。


『続きまして、新婦ゆの様。新郎のご両親へ心のこもったお品を……』


静乃さんの合図でお弟子さんが私を誘導する。

隼斗さんと同じく、ステージ上のテーブルの元へ。


そこには、真っ赤な林檎と包丁が……。

えっ?! もしかして、コレを??


お弟子さんの顔を覗き込むと、

にこやかな笑顔で包丁を手渡して来た。



――――――どうしよう、剥けるかしら?


隼斗さんや父親、お義父様やお義母様、

そして、会場中の視線を浴びる中、

私は震え気味の手で林檎の皮を剥き始めた。



「ゆの、落ち着いて……」

「………はい」


隼斗さんが傍に寄り添ってくれた。

私の緊張を解す為に……。


そんな彼の想いにも応えないと………。



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