家元の寵愛≪壱≫


「確かに乗せたな」

「………」


――――とうとう認めちゃったよ。

本当は心のどこかでしらを切ってくれるんじゃないかと

言ってる事とは正反対の気持ちがあったのも事実。


だけど、彼は認めた。

………密会の事実を。



思わず、涙が溢れて来る。

今日1日、倖せに満ちた時間はこんなにも脆かったの?


砂で出来た城は一度崩れたら元には戻らない。


涙で視界が滲むけど、それでも彼を見据えていた。

だって、こんなにも近くにいるんだもん。

どんな結果になっても、彼から離れないと決めたから。


だから、今は現実を受け止めようと思う。

私って、根っからの正直者。

見て見ぬフリが出来ないんだもの。



込み上げて来る感情を堪え、唇をギュッと噛みしめると

壊れ物を触るみたいにとても優しく

そっと指先で涙を拭ってくれる隼斗さん。



「ゆの」

「………はい」


涙を拭った彼の手がゆっくりと私を包み込んだ。


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