家元の寵愛≪壱≫
「彼女を乗せたのは1回だけ。それを見たというなら、凄い偶然だけど、その日は今日の披露宴でした、余興のフラモブの練習初日で、打ち合わせも兼ねて彼女を呼んだんだ」
「フラモブ?」
「音楽が急に鳴り出して俺らが踊ったヤツ。フラッシュ・モブって言うんだ」
「あっ……はい」
「で、あの日は諸岡さんが夕方までそのホテルで打ち合わせが入っていて、時間の関係もあって俺が現場に向かう途中で拾ったって訳」
「………わざわざ?」
「うん。………彼女、免許持ってないらしくて、タクシー拾うくらいなら俺が拾っても同じだし。スケジュールが詰まってる所、無理を通して貰ったのは俺だしさ」
「えっ………」
隼斗さんは苦笑した。
その理由は明らか。
だって、彼だって仕事がある訳だし、
その仕事を終わらせてからのレッスンだった訳でしょ?
しかも、無理を言ってまで頼み込み、
そして、今日の為に準備をしてくれた。
―――――私の嫉妬心なんて次元違いな話。